債券投資家はここからどこへ向かうのか?
マルチセクター債券戦略の運用を開始してから12年が経過しましたが、世界は再び金融引き締めに加え、欧州での戦争の悲劇と経済に対する広範な影響に直面しており、市場のボラティリティが高まった局面に遭遇しています。したがって、これらの問題に対する考察や、債券市場で日々目にする状況について、皆さまと共有したいと思います。このようなレターをお届けするのは7度目で、2020年3月以来となります。これまで、レターを執筆する主要な目的の一つは常として忍耐を促すことにあります。このような変動の激しい期間を通して利益を獲得する戦術は、忍耐であることを歴史が示唆しており、今回も歴史の再現となると考えています。
2021年が年末に近づくにつれてこの背景には、中央銀行の政策、世界経済のパフォーマンス、リスク資産のバリュエーションの間に、極めて珍しい関係が存在する点が明らかになりました。中央銀行の政策は、依然として景気回復の初期段階にあるサイクルを後押しすることを目的としており、世界経済自体はおそらくサイクル中期と表現するのが最適で、リスク資産のバリュエーションは少なくともサイクル中期か、一部のケースではサイクル後期にあるというのがTwentyFourの見解でした。これらの要因は2022年に収束するはずであり、その期間中に世界全般の投資家が今すぐにも直面することになる金融引き締めを織り込む中で、市場のボラティリティは上昇すると弊社は確信していました。この時点での戦略は、流動性を超過的に保持し、サイクル内で生じると想定される次の下落を活用できる態勢を整え、またバリュエーションに割高感が見られる間は、クレジットのエクスポージャーを相対的に短めに維持することでした。また2022年に入り、金利スワップを通じて金利のデュレーションを一段と短縮し、第1四半期に見込まれた、国債利回りの上昇からポートフォリオの保護を図りました。
FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレは「一時的」といった見解を転換し、イングランド銀行が最初の利上げを実施したため、国債利回りは実際に12月から1月、2月にかけて急上昇しました。米国が完全雇用に近づいていることが明らかになり、世界中でかつてないほどインフレが懸念されるようになると、市場はますます多くの利上げを織り込み始めました。2月末時点で、市場は2022年のFRBによる利上げ回数を6回と予測しており、これはほんの数ヵ月前と比べると、にわかには信じがたいほどの変化です。この不確実性の結果として、クレジット・スプレッドは顕著に拡大しました。このような神経質な状況は、3月に開催される次の中央銀行の会合まで継続するとみられました。ここでは、主要国が直面している利上げのペースとその規模がより明確になり、2022年に中央銀行がバランスシートをどのように縮小するかに関する、より多くの洞察が得られると予想しました。また、国債のボラティリティを和らげ、市場を落ち着かせる契機になるとも考えました。結局のところ、投資家を不安にさせるのは通常、金融引き締めのタイミングに関する不透明感であり、金融引き締めの状況下でも市場は良好なパフォーマンスをもたらすことが可能です。
予想していたサイクル内の下落は、実際に年初からの2ヵ月間に発生しました。弊社は保有し続けていた流動性の一部をその時点で運用に回し、より魅力的な利回りで債券を手に入れることを検討していたでしょう。しかしその後、ロシアのウクライナ侵攻に伴う前例のない数多くの金融・経済制裁が発動され、投資家がこの報道を織り込む中で、市場では激しい下落が起こりました。その結果、2月はポートフォリオの利回り改善を図りいくつかの取引を実施しましたが、予想が非常に困難なイベントが進行中であるため、年初からの2ヵ月間で想定していた押し目での購入は控えています。
ロシアのウクライナ侵攻後、市場はTwentyFourの予想した通りの反応を示しました。クレジット・スプレッドは拡大し、株式は大幅に下落し、コモディティ価格の急騰に拍車をかけました。ロシアに課された制裁全体の詳しい説明は避けることにしますが、今後はほぼ全てのシナリオにおいて、その最終的な影響はインフレが既に数十年来の高水準にある局面で、従来の予想よりも一段と高く、より広範なものになることは明らかであると考えます。これはほぼ全てのシナリオで、インフレが上昇する一方で、成長が一段と減速するため、中央銀行にとってまさに難問となります。英国と米国の短期金利引き上げは織り込まれていると考えていますが、2月に市場が予想していた2022年の利上げが実際に実施されるかどうかは、戦争とそれにまつわる貿易問題がもたらすさまざまな結果に左右される可能性があります。
確率の高い結末はインフレの進行と成長の減速
現在の債券市場に目を向ける前に、まずロシアのウクライナ侵攻がどのように展開するかについて、さまざまなシナリオを考えてみる価値があると思われます。
シナリオ1は最も楽観的で、比較的短期間で外交的な解決と停戦が成立する展開です。制裁の一部は撤回され、市場の焦点は金融引き締めに戻ることになります。このシナリオでは、リスク市場が大きく反発し、コモディティ価格が正常化に向かい始め、政策金利引き上げとインフレ抑制策に焦点が戻ると予想されます。
シナリオ2では、紛争が速やかに解決することはなく、制裁が一段と激化し、おそらくロシアからの報復も見込まれます。欧州向け石油・ガスの供給が最終的に打ち切られた場合、コモディティ価格は高止まりしたままで、ここから一段と上昇する能性もあります。世界は、経済成長、消費者心理、インフレ見通しに重大な影響を及ぼしかねないコモディティ価格ショックに直面する状況も考えられます。シナリオ2においては、結果の幅が極めて広範にわたると考えており、欧州の成長率に最も大きな影響が及び、従来予想から1%~4%落ち込む可能性があります。インフレ率は世界中で急上昇を続け、おそらく英国や米国では10%に達し、2022年に入って中央銀行が予測したほど急速にインフレ率の下がらない可能性があります。シナリオ2内のより穏やかな範囲にとどまった場合、市場は上昇する確率が高まりますが、最悪のケースでは、リセッションが優勢になるとみられます。これがどのような種類の景気後退であるかを判断するのは困難ですが、現時点ではV字型を予想しています。この不況の解決には、政府がコモディティ価格ショックを逆転させ、貿易相手国を変更する必要があると思われます。弊社はまた、コモディティ価格の上昇による影響を緩和するための補助金を含む、迅速かつ協調的な財政・金融対応を予想しています。
シナリオ3は、ロシアがさらなる侵攻を開始し、他国を戦争に巻き込むといった、軍事衝突が拡大する極めて最悪のものです。シナリオ3に対する市場の反応は、シナリオ2の最も厳しい領域に似ていますが、より深刻な結果をもたらす可能性が高いと思われます。
地政学的危機を予測することは非常に困難ですが、この局面での売買も同様に困難です。TwentyFourの見解では、シナリオ2の範囲内で中間点のどこかに到達する可能性が高く、それを暫定的な基本シナリオとします。そうなった場合、インフレ率の上昇に確信を持ち、成長の鈍化にも確信を持つことになります。しかし、市場は既にその多くを織り込んでいるようで、いくつかの分野では、基本的なシナリオよりも悪い結果に基づいて価格付けしているとみられます。したがって中期的には、今日のレベルから見て、社債市場の多くの領域が魅力的な様相を呈していると考えられます。短期的には、市場がどのように変動するかを予測するのは明らかに困難ですが、高水準にある現在の利回りが多くの悪いニュースを補う形となっており、その例をいくつか示すことは価値があると思われます。
一部では利回りが危機以前の水準にまで上昇
銀行や保険会社の劣後債を追随するICE BofA Contingent Capital (偶発転換社債)指数は現在、6%近い利回り水準にあり、過去最高値は2020年3月に記録した7.4%となっています。欧州ハイ・イールド債の利回りは4.7%(過去10年の平均は4%、6ヵ月前は2.29%)で、米国ハイ・イールド債の利回りも大幅に上昇し、2021年9月の3.78%から現在では6%近辺にあります。言うまでもなく、直接的な比較をする場合は、米国と欧州で通貨ヘッジによる調整が必要です。歴史的に弊社が選好する優良セクターの一つで、ほぼ全てが変動金利の資産クラスである欧州のローン担保証券(CLO)のBB格利回りは、年初にリスクフリーレートプラス650bpでしたが今では800bpに接近しています。
市場がどの程度変動したかを示す好例として、アンコンストレインド運用のTwentyFourストラテジック・インカム戦略(比較のために英国ポンド建て利回りを使用)の利回りは現在6.43%となっています。2020年3月の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で生じた市場混乱のピーク時には6.75%、2016年2月に市場を揺るがしたエネルギー価格危機のピーク時には6.58%でした。いずれのケースにおいても、過去の平均からみたデュレーションは短く、プルトゥパー(債券価格が最終的に満期時の額面価値に徐々に近づいていく動き)が強く、利回りが高く、流動性が高いことから、力強い回復と思われる方向にポートフォリオを傾斜することができました。確かに今回は底を予測するのがさらに難しいものの、中期的にはスプレッドが再び縮小し、将来的に利回りが低下すると確信しています。
現時点のポートフォリオは、弊社が強固なクレジットとみなすもので満たされており、ロシアに対する直接的なエクスポージャーはありません。以前からインフレ懸念を抱いていたため、強力な価格決定力を有しており、そのため差し迫る投入価格の上昇を、顧客に転嫁できると考えられる企業への融資に特に重点を置いてきました。価格決定力を持たず、コモディティ価格が投入コストに及ぼす影響が高い企業は、利益率の圧迫やレバレッジの増加に苦しむ可能性が高く、今後の格下げが最も一般的になると考えられます。これらは、どのシナリオにおいても保有を避けたい企業です。
銀行、米国社債、CLOに投資妙味
TwentyFourが銀行のエクスポージャーに、依然としてかなりの自信を持っている点を強調しなければなりません。カバーする銀行グループは、過去にこれほど多くの資本を保有したことはなく、パンデミックの最悪期に蓄積した余剰資金を依然として維持しています。これらの銀行が有するロシア関連のエクスポージャーは、極めて低い状態です。弊社の見解では、この過剰資本の状況下で特にごく最近、銀行が記録的に最も深刻なリセッションの中で達成したパフォーマンスを目の当たりにしており、この点を踏まえると、ロシア関連のエクスポージャーは非常に管理しやすいとみられます。銀行は、弊社が現在20%の流動性配分で追加投資を行う可能性が高い分野です。過去の平均と比較して割高だと思われていた米国のクレジット・スプレッドが拡大した点を踏まえ、また欧州の他の国と比較して米国の経済的地位が強固であり、エネルギー輸入への依存度が低いことを考慮すると、米国クレジットの分野を追加的に保有することも想定しています。
成長鈍化により、中央銀行が今年後半に利上げを先送りしたとしても、変動金利資産を保有する論点には依然として説得力があると弊社は考えており、したがって、獲得できるスプレッドが現在の水準かそれに近い間は、CLOのエクスポージャーにも目を向ける可能性がかなり高まります。
最後に、不透明な期間としては異例ですが、金利デュレーションの追加はまだ予定していません。インフレの進行に伴い利回りは上昇するものの、成長が鈍化して利回りは再び低下することもあり、債券投資家は実に難しい局面に置かれています。高まり続けるインフレ見通しによって国債の典型的なリスクオフ時の魅力が低下しており、安全資産としての信頼性は通常よりも低くなっていると考えられます。短期的には、複数回の利上げがすでに織り込まれていますが、弊社はその全てが実施されるとは限らないと考え、国債のイールドカーブにおける短期ゾーンの中でも最終部分を保有することを選好しています。
結局、依然として多数の不確実性に直面する中で、現在の予測以上に悪い結果が生じる可能性がありますが、弊社の見解では、多くの悪いニュースは既に市場に織り込まれています。投資家がこのような試練となる期間に忍耐を発揮すれば、報われることになると弊社は考えています。この期間にドローダウンが発生したことには、いつものように失望していますが、今回も幸運なことに高いレベルの流動性を維持しており、その結果、回復局面が到来した際に、価格上昇から恩恵を得られるようポートフォリオを速やかに傾斜させることが可能になります。
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